19-年賀号:干支に学ぶ己亥

歴史を学び、歴史に学ぶ

「歴史は例証からなる哲学である」とは古代ギリシャのローマ史研究者の表現ですが、東洋にも「温故知新」という言葉があります。数千年の歴史の中、人間社会に対する歴史的観察と統計上の蓋然性に支えられた干支という思想は、帰納的に生み出された歴史の例証として尽きせぬ興味が湧くものといえるでしょう。

「干=幹」、「支=枝」ということで、「干支」は一本の草木、一つの生命体を表します。生命の誕生から衰退、そして新たな息吹まで六十年を一つのサイクルとしながら人間社会の栄枯盛衰の理論として古くから参考にされてきました。日本では十二支として大衆化され本来の意味を失っていますが、暦学の応用として今でも多くの経営者や政治家の参考にされており、先人の知恵の結晶ということができるでしょう。


己亥(つちのと・い)

今年の干支である「己(こ)亥(がい)」ですが、「己」は曲がりくねった糸とそれを正そうとする力(紀)、「亥」は「核」で古書曰く「百物を収蔵す」、植物が実となって核を形成し、エネルギーを凝縮している様子を表します。前年の「戊(ぼう)戌(じゅつ)」(枝が繁茂していく様子を示す)を受け、繁茂しきった中に新たな剪定が加わり筋道を正していこうとすること、そして新しい起爆的エネルギーを内包するような年になることを表しています。

歴史的に観察すれば、前回の己(こ)亥(がい)は一九五九年(昭和三四年)、世界的にはキューバ革命が成功しアメリカの喉元に社会主義政権が誕生した年になります。一八九九年(明治三二年)は米比戦争やボーア戦争など、「帝国主義と戦争の世紀」である二十世紀を目前に各国の思惑が激しく交錯していきます。更に遡れば一八三九年(天保十年)、日本では前々年のモリソン号事件を受けて蛮社の獄が発生し、いよいよ幕末へと歴史が進んでいくタイミングといえるでしょう。


さて、今年の己亥は

昨年は戊(ぼう)戌(じゅつ)よろしく日産のゴーン前会長の問題や年末の米国の株価下落など、最後まで何かと騒がしい年となりました。北朝鮮をめぐる南北首脳会談や米朝会談はその後芳しい成果を見せず、一方でオウム死刑囚の死刑執行など「過去の清算」も記憶に新しいところです。

今年は己亥ということで、本格的に新しい時代への転換点となっていきます。己は「おのれ」でもあり、自分自身が曲がったところを正して筋道を立て、まさに起爆的エネルギーを蓄えて次につながる準備をしていかねばなりません。干支は古代の知恵として有用ですが、こうした知恵をどれだけ活用できるか、まさに受容する人間によって千差万別でありましょう。真の創造的実践に結び付けるためには、やはり自分自身をよく振り返り、日ごろの煩瑣な物事を断ち切ってシンプルにしていく必要があるでしょう。元日はその為の良い節目となります。

来年の干支は庚子(こうし)です。庚には三つの意味があり、継承・継続、償い、そして更新であります。子は増える、新たな生命の芽吹きを表します。新しい時代を継承し、伸ばしていくためにも今年、平成最後の年に「良い芽」を生み出さねばなりません。まず隗より始めよ、ということで自らが率先垂範していきたいと思います。


編集後記

皆様、新年明けましておめでとうございます。

私事ですが昨年夏に第二子が生まれ、その後公私ともに忙殺された結果、本ニュースレターの更新ができない状態が続いておりました。まさに戊(ぼう)戌(じゅつ)の字のごとく枝葉の繁茂を押さえられずにいたと忸怩たる思いです。本レターの停滞からご心配のお声を頂くこともあり、改めて深謝申し上げる次第です。

弊社も既に五期目に入り、新たな挑戦を始める予定です。己亥の年、新たな起爆的エネルギーを内包させられるよう、日々努力して参ります。引き続き本年も何卒宜しくお願い致します。

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