19-01号:平成、停滞の三十年

時価総額トップテン

この一月九日に遂に米国アマゾンが時価総額で世界一位になったというニュースが駆け巡りました(約八十七兆六千億円)。「将来の収益性に対する期待値」、すなわち時価総額という株式市場の気紛れな評価はその時代ごとの産業の趨勢を如実に表してきました。足許ではマイクロソフトやアップル等の米国IT企業がほぼ独占し、アリババやテンセントといった中国企業が頭角を現しています。日本勢はトヨタが首位ですが、世界の中では三〇位~四〇位に過ぎません。

私たちの多くがその人生を過ごした「平成」という時代は、日本経済にとってはバブル絶頂期から失われた三十年へとつながる停滞の時代であったといえるでしょう。バブル絶頂期の平成元年の世界時価総額トップテンにはNTT(分割前)を始め実に七社の日本企業が名を連ねていますが、その多くは今や見る影もありません。

また驚くべきことに当時世界一位であるNTTの時価総額は一六三九億ドルですが、平成三〇年トップであるアップルの時価総額はその五倍以上、九四一〇億ドルと雲泥の違いであるということです。現在のNTTグループ(持株、NTTドコモ、NTTデータの三社合計)の時価総額は一八五二億ドル(一月一五日現在)と三〇年前から微増ながら、世界が倍速で先に行ってしまったのが実態です。


繁栄の構造が変わった

平成を総括するには様々な見方がありますが、例えば名目賃金の推移をみれば米国や欧州が倍になっている一方で日本は見事に三十年間横ばいを続けています。結果的にデフレ経済が継続し、相対的な購買力が低下しているため、アジア各国からも「日本は安い国」という認識が広まってきていると言えるでしょう。百円ショップやドン・キホーテは訪日外国人客で溢れています。

同様に主要な株式指標を見てみましょう。米国のダウ平均株価が八十九年比一千百%という驚異的な伸びを示しているのに対し、日本の日経平均株価は(バブル絶頂期との比較とはいえ)当時の七割にとどまっているということ自体、株式市場からの期待値の低さを物語っています。アベノミクスで日経平均が上がったとはいえ、世界を見れば彼我の差の大きさに愕然とするばかりではないでしょうか。

明治維新にせよ、戦後の高度経済成長にせよ、日本は危機に際してトップダウンで猛烈なキャッチアップを果たしてきました。向かうべき方向性が決まれば日本人は強いとよく言われますが、それでは今のIT系のトップ企業に倣って日本も産業を集中させればよいのでしょうか。事はそう簡単ではありません。過去と現在の根本的な違いは、勝負が情報世界・デジタル世界で行われているということです。リアルではなくサイバー空間で競争を行う上では、必然的に一極集中が起こります。グーグルにせよアマゾンにせよ、情報世界では最も便利なプラットフォームに富が集中し、加速度的に膨張・自己増殖するのです。要は勝者独占の世界であって、後から二番煎じでグーグルに追いつこうとしても不可能なのです。

今必要なことは戦いの土俵を変える発想と実行力を持つ個人、そしてそれを生み出せる社会の力でしょう。「方向性が決まれば強い」などと悠長なことを言っている時間はありません。改元を節目として日本は生まれ変われるのでしょうか。世界地図とサイバー空間に新しい杭を打ち込んでいかねばなりません。


編集後記

今回は平成の振り返りを行いました。このニュースレターをお読みいただいている方の多くは昭和生まれだと思いますので、まさに平成の三十年間は自らの生きた時代といえるでしょう。

もともと過去の成功体験に引きずられていると考えていたのですが、最近はルールが変わってしまったことにそもそも気が付いていないのではと思い始めました。特に二十一世紀に入ってからは、勝ちパターンの変化と共に発想の源泉となる個人の重要性がより高まっています。

日本をどうしたいのか、新しい時代に向けて一人一人が強い意思を持って行動していく必要があります。

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