20-04号:原油、葛藤と野合

荒れる原油市場

原油市場が荒れています。コロナウイルス感染拡大による需要の落ち込みに加え、サウジアラビアとロシアの減産合意が妥結せず、サウジアラビアが増産に踏み切ったことがきっかけで一時は一バレル二〇ドルを切る水準にまで下がりました。各国の対応は早く、足元(四月十二日)では米国を含んだOPECプラスによる協調減産の合意に至り、世界の原油生産量の十三%以上にあたる日量九七〇万バレルの減産が決まっています。

原油価格について、石油輸入国からすれば安い方が良いのですが、産油国からすれば経済的に死活問題であり、現状を放置すれば政治情勢の不安定化は避けられなくなるでしょう。


産油国財政への影響

この文脈で押さえておくべきポイントは以下です:

  • もともと原油価格は八十年代から二〇〇〇年まで一バレル二〇ドル前後で推移しており、二〇〇〇年以降が新興国需要を受けたバブルだったということ
  • 一方、産油国はそのバブルの経験をもとに現在の財政を構築していること
  • WTI市場は市場としては小さく、大量の資金が出入りすると一気に乱高下すること
  • 従来の石油の競合としてシェールオイル/ガスが出てきたこと

まずチャートを見れば明らかですが、二〇〇〇年から二〇一〇年の原油価格の値上がりは明らかに投機を伴ったバブルでした。難しいのは、産油国がこの原油価格水準が続くものとして、それを基礎として国家財政を構築してしまっていることです。少し古いデータですが(二〇一四年)、ピクテによればサウジアラビアの原油採算コストは一バレル七ドルである一方、国家予算を維持するには一バレル九〇ドル必要になります。ベネズエラに至っては一バレル一六〇ドルでなければ国家予算を維持できないということで、当然ながらそのような財政は破綻し、現在のハイパーインフレーションにつながりました。プーチン大統領も「OPECと米国は協調減産を」と表明しましたが、要するに今の原油価格ではロシアも財政が持たないということです。

サウジアラビアはムハンマド皇太子を中心に脱石油にチャレンジしていますが、ほとんどの産油国は石油という「札束が湧いてくる産業」に依存しており、簡単に別の産業にシフトできるわけではありません。石油が安くなることで産油国の経済が崩壊し、政治的に不安定になってしまうことは周辺国にとっても憂慮すべき問題でしょう。


新しいエネルギー社会への挑戦とは

シェール革命によって世界の原油生産はOPECだけで調整できるものではなくなっています。そうした中東のポジション低下に伴う政治的影響は甚大です。もともと米国が中東に介入し、サウジアラビアと蜜月関係を築いてきたのは原油確保の重要性からでした。それが今やシェール革命のおかげで石油生産の世界一位は米国になり、あろうことか米国が石油の純輸出国になってしまいました。米国にしてみれば原油を中東に依存する必要がなくなり、中東への政治的関心、露骨に言えば産油国への配慮は不要になります。これはオバマ政権の時代から顕著であって、イランの核開発に関する合意をサウジアラビアの反対を押し切って行う等、既にその兆候は表れていました。

長く歴史を見れば、エネルギー源も石炭から石油にシフトし、原子力が頓挫、そしてシェールが登場し、再生可能エネルギーへ世界が動こうとしています。そうした大きな地殻変動を踏まえれば、今回のような原油価格の動きはそれほど驚くべき話ではありません。もしかしたら今後はシェールが従来のスキームに取り込まれ、新たなカルテルが作られるだけかもしれませんが、世界的な環境問題を踏まえれば、化石燃料を超えた新しい世界にシフトしていく必要があるように思います。私たちが足元で最も関心を払うべきは、石油なき時代における中東の国々やロシアの政治経済的な安定をどのようにサポートしていくのか、そして日本も含め、石油中心であった社会インフラ構造をどのように次世代エネルギー型へとうまくシフトしていくのかということでしょう。


編集後記

コロナで自粛要請が続く中、いかがお過ごしでしょうか。政治的リーダーシップとは何かという点について考えさせられる毎日です。

今回もコロナに関係するテーマではありますが、久々に原油市場を扱いました(二〇一五年以来)。再生可能エネルギーの進展も目覚ましいですが、まだまだ化石燃料がエネルギーの中心であることは間違いありません。環境問題へと目を向けるためには、産油国の産業構造そのものをどう変化させていくかという重たい問題があります。

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