20-06号:SNS規制を巡って

SNSと通信品位法

トランプ大統領が米通信品位法の解釈に関する大統領令に署名しました。これはトランプ大統領のツイートに対し、ツイッター社が「要事実確認」や「暴力賛美」といった警告をつけたことが直接のきっかけになったといわれています。

通信品位法二三〇条によれば、ツイッターなどのSNS事業者は、ユーザーが投稿したコンテンツに対して法的責任を負いません。一方、猥褻や嫌がらせ、暴力などに関する内容があった場合、常識に照らしてその投稿を排除する行為を認めています。この二三〇条がSNSの自由な投稿と発展を支えてきた一方、ヘイトスピーチやフェイクニュースなどの拡散にも寄与してきました。SNS上の投稿は規制されるべきか、自由であるべきか。今回の大統領令は、もしSNS事業者がユーザーの投稿に編集を加えた場合は法的保護を受けないこと、そしてSNS事業者が特定の政治的立場を規制していないか、投稿阻止が適正に行われているのかを検証することなどが定められています。SNS投稿の自由を擁護する立場といえるでしょう。ちょうど日本ではテラスハウスの問題からSNSへの規制が議論されているのと対照的です。


表現の自由をめぐって

事業者による投稿阻止が表現の自由を侵害するという意見がありますが、これは誤りです。ツイッターで投稿を阻止されてもフェイスブックで掲載可能かもしれず、投稿を事前に一律禁止するものではないからです。また、トランプ大統領はSNS事業者が党派的でないかを問題視していますが、そもそもあるメディアが党派的であるのは当然であって、日本でも朝日新聞から産経新聞まで色々なメディアが存在します。

こうした問題の背景には、現代社会におけるSNSの影響力の大きさがあるのでしょう。誰もが世界に向けて自由に発言できるということは素朴に「民主主義を加速させ向上させる」と信じられてきましたが、啓蒙装置というよりは、むしろ愚かさを広める拡声器のようなものになってしまいました。そしてSNS上にはヘイトスピーチやフェイクニュースがあふれ、表現の自由の名の下に保護されようとしています。

ネット上の言論に関する表現の自由については、より根深い問題も潜んでいます。IT技術の進歩により、人間が書き込まなくてもプログラム(ボット)を作成して大量の投稿ができてしまう一方で、ある人の傾向に合わせた個別のカスタマイズによって、私たちは見たい情報しか目にしないようになっています。今回のコロナウイルス自粛期間においては様々な「○○チャレンジ」がなされましたが、「七日間ブックカバーチャレンジ」が沢山流れてきた人もいれば、「腕立て伏せチャレンジ」しか見ていないという人もいるでしょう。本人が気づかない中で情報の取捨選択が行われているわけで、情報を発信したところで「全員に届かない」という状態であれば、そこにおける表現の自由に何の意味があるでしょうか。


素朴な資本主義を超えて

なお、もしSNS事業者に投稿内容の確認を求め、誹謗中傷やフェイクニュース、ヘイトスピーチなどの削除を義務付けた場合どうなるかといえば、欧州で既にみられる傾向ですが、安全策をとってグレーゾーンの投稿は全て削除されることになり、それこそ自由な言論が阻害されてしまいます。また更に悪いことには、そのようなコストのかかる対応ができる事業者は限られているわけで、結果的にGAFAのような巨大企業への寡占が強くなってしまうでしょう。

インターネットが出てから実際、まだ二十年しか経っていません。実は私たちは情報化社会に住んでいるつもりで、その入口にしか立っていないのでしょう。産業革命にしても最初は素朴な資本主義が吹き荒れ、財閥の登場や労働問題など大きな社会的問題を引き起こしました。今後、SNSだけでなく個人情報保護なども含めてまだまだ問題は発生してくるでしょう。私たちは過去と同様、試行錯誤を繰り返しながら社会を分断ではなく、全体の向上へと良い方向に動かしていかねばいけません。情報化社会による時代の大きな変化はこれからなのです。我々自身がこれから、より良い情報化社会を作り上げていくのです。


編集後記

このニュースレターも五十回を超え、今回は五十一回目となりました。途中で途切れた時期があるのが残念ですが、今後も末永く応援をお願いいたします。

今回は日米のSNSの問題を扱いながら、情報化社会について考えました。インターネットの発達で大きく社会は変わったかに思えましたが、本格的な転換はこれからなのだと強く感じています。

デジタル社会の進展はある種の反動を生むかもしれませんが、それを切り抜ければ産業革命並みの変化が期待できるかもしれません。新しい世界に向けて、建設的な議論を重ねていきたいものです。

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