マインドシーズは主に日本の企業向けに経営層育成をしているわけですが、日本独特なのか、「頭はいいけど夢がない人々」をよく見かけます。
こういう人たちはなかなか厄介です。自分たちは自分のことをよくモノが分かって高い見識を持っている人間だと心ひそかに自負している一方で、妙な防衛本能をもっているのか、一種の敗北主義者でもあって、
「日本はもうダメなんだよ」
「今後日本は美しく衰退していくのだ」
「この業界はこのまま縮小していくし、それで良いと思っている」
など、こともなげに言い放つのです。そうやって自分で勝手に切り捨てておいて、自分はよく事理を理解している人間だと思っていますから、真剣に物事を考えて行動し、努力している人間を鼻先で冷笑するのです。
確かに日本は先進国では唯一人口が右肩下がりに減少しており、経済も30年間横ばい、賃金も上がらずに全員で貧しくなっているような国であることは間違いありません。結果的に多くの市場が成熟化して成長が見込めないのも事実です。ただ、その事実と「それでよいのだ」と思うことは全く別であって、「企業や社会をどうしていきたいか」という思いが今後の日本や世界を変えていくことを思うと、そんな人は戦う前から負けているといって間違いないと思うのです。
中島敦の小説『山月記』の主人公李徴には「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」があったと書かれています。
己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢えて刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった。
結果として、李徴は虎という人外の獣になってしまいます。まさに野狐禅です。
戦略的思考においては、環境分析のような冷静な分析能力と同様に、自分は社会をどうしたいのか、会社をどうしたいのか、自分自身はどうなりたいのか、といった「熱い思い」がどうしても必要です。キビキビした情熱、感激性、気魄といったものがない人間は生きているのか死んでいるのかも分からないようなもので、そんな人間に心震わせるリーダーたる資格はありません。「一国は一人を以て興り、一人を以て亡ぶ」(蘇老泉「管仲論」)のと同様、企業も一人を以て興り、一人を以て亡ぶのです。
ウルマンの有名な「青春」の詩には、「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ」とあります。
青春とは人生の或る期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。
優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、怯懦を却ける勇猛心、
安易を振り捨てる冒険心、こう言う様相を青春と言うのだ。
年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる。
歳月は皮膚のしわを増すが、情熱を失う時に精神はしぼむ。
(中略)
人は信念と共に若く 疑惑と共に老ゆる。
人は自信と共に若く 失望と共に老ゆる。
希望ある限り若く 失望と共に老い朽ちる。
<原作 サミュエル・ウルマン 翻訳 岡田義夫>
明治初期、札幌農学校で教えたクラーク博士は、Boys, be ambitious!(青年よ、大志を抱け)と言いました。
“Boys, be ambitious not for money or for selfish aggrandizement, not for that evanescent thing which men call fame. Be ambitious for the attainment of all that a man ought to be.”
「青年よ大志をもて。それは金銭や我欲のためにではなく,また人呼んで名声 という空しいもののためであってはならない。人間として当然そなえていなければならぬあらゆることを成しとげるために大志をもて」
<北海道大学HP “Boys, be ambitious!”について>
今、世界の先進国が「日本化(japanify)」しているということが言われます。これは金融緩和をしても経済が反応しないこと、全体として低欲望化していることと説明されますが、低欲望というよりも、理想精神がなくなってきているのではないかと感じるのです。人間かくあるべしという理想、自らを社会のエリートたらしむという気概とそのための努力を惜しまない心こそ、今の日本に、そして世界に求められているように感じます。
=====サミュエル・ウルマンの原文=====
Youth is not a time of life; it is a state of mind; it is not a matter of rosy cheeks, red lips and supple knees; it is a matter of the will, a quality of the imagination, a vigor of the emotions; it is the freshness of the deep springs of life.
Youth means a temperamental predominance of courage over timidity of the appetite, for adventure over the love of ease. This often exists in a man of sixty more than a boy of twenty. Nobody grows old merely by a number of years. We grow old by deserting our ideals.
Years may wrinkle the skin, but to give up enthusiasm wrinkles the soul. Worry, fear, self-distrust bows the heart and turns the spirit back to dust.
…
When the aerials are down, and your spirit is covered with snows of cynicism and the ice of pessimism, then you are grown old, even at twenty, but as long as your aerials are up, to catch the waves of optimism, there is hope you may die young at eighty.
< Ullman, From the Summit of Years, Four Score (1922) >
<関連ブログ>
<参考書籍>