あなたがたの中で風邪をひいたことのない者が、まずこの中国人に石を投げつけるがよい! ~建設的批判のために

コロナウイルスが世界的に問題になっています。

私の友人(日本人)は中東で海外勤務をしていますが、「日本人も韓国人も中国人も一緒だ。みんな、少しでも咳やくしゃみをすれば、『推定中国人』として認識され、コロナウイルスの保菌者として扱われる」と言っていました。ちなみにキルギス人やモンゴル人も日本人に似ています。

コロナ予防としてむやみに人混みに行かなかったり、感染者との関わりを避ける努力をするのは当然として、中国人は全部危ない、東洋人は全部危ない、といった過剰反応は人間の常とはいえ、悲しいことです。また、中国の対応が初動としてお粗末であったとしても、もし自分の国で同様のことが起こった場合、適切に対処できたかどうかを問うことが大切でしょう。グローバル化が進む中、中国での感染拡大は対岸の火事ではありません。

さて、自分のことは棚に上げて、というのが今回のテーマです。

この題名はイエスの

「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」
『ヨハネによる福音書』 第8章2節-11節

のパロディです。

イエスと姦通の女 Gustave Doré's "Jesus and the Woman Taken in Adultery" ( From Wikimedia Commons, the free media repository )

人を批判するのは簡単ですが、自分が逆の立場であったらそんな態度を許容するだろうか?あるいは、その当事者の立場にたったら、そのタイミングでどんな意思決定をするのか?その考察があって初めて批判は建設的になります。コロナのケースでいえば、疫学的な公衆衛生の問題とその対策に伴う経済的不利益の均衡をどう考えるかが論点となるでしょう(もちろん国家安全保障や国内政治など、他の論点も考えられます)。一般的に言えば、経済的損失を最小限に抑えながらも国民の生命や安全は断固として守ること、そのために政府は適切に情報開示を行い、方針を示し、国民がヒステリーに陥らないように誘導せねばなりません。

私たちは、ある事象や制度を考える際、近視眼的に「自分に都合よく」考えがちです。相手には厳しい態度をとっておきながら、自分には甘いということもよくあるものです。ただしそれは天に唾するようなもので、結果的に自分のためにはならないものです。遠き慮りなき者は必ず近き憂いあり(論語)、なのです。

かつて日本がジャパンアズナンバーワンとして浮かれているとき、その状況に警鐘を鳴らしていた人がいました。

Japan as Number One (from mindseeds.inc)

いまだに自分たちの市場開放はなるべく少なめに、外国政府にはなるべく自由貿易主義を貫いてもらいたい、と真面目に願っている。外資が土足で入ってくるのは困るが、優秀な日本軍がデトロイトをやっつけるのには快感さえ覚える。(中略)
北陸の繊維業者が続々とつぶれていくのは社会問題だが、クリーブランドの鉄鋼所が閉鎖されるのは長期的視野に欠けた アメリカ経営の破綻の典型例だ、と涼しい顔をしている。日本人の胃袋にとって、米よりも今日ではもっと大切な比重を占めている様々な農産物のつくり手であるアメリカの農民が大恐慌以来の不況に苦しんでいるのに、あれはドル高のせいだ、として代替地をアルゼンチン、中国、オーストラリアに求めようとしている。これで日本が血もあり感情もあり、なさけのわかる国として世界に理解されたいと願う資格があるのだろうか?(中略)
今日、エネルギーや食糧の80パーセント以上を世界に求めている富める国日本が、同情を寄せ、保護するのは自国の農民や漁民のみで、他の一次産品供給国は抽象名詞に過ぎない、という状況は鏡に映して考え直してみる必要がありはしないか?
大前研一『世界が見える、日本が見える』

自分さえ良ければよいという自己中心主義と無責任な批判はコインの裏表です。かつての日本のような幼稚な状況が現在世界中で起きているのではないでしょうか。また、日本においても、福島の原発事故の後に各国が日本産食品の輸入制限をしたわけですが、「あれは日本全体の話ではなく福島だけの話だ」と抗議をしています。ただ、もしそう主張したいのであれば、BSE問題について米国やブラジル産牛肉を全面輸入禁止にしていることの是非が問われなければなりません。

コロナウイルスの話題を見ながら、自分が各国の意思決定権者であればどうするかな?とそれぞれの国の立場に立って考えてみると、建設的な解決策が出てくるかもしれません。良い批判というものは、後の世代が見たときに「当たり前のことを言っている」と感じるようなものです。その時は非常識でも、後の時代には常識になっていくもの、そういう批判が社会や会社の進歩を支えています。今回のコロナを奇貨として、世界がそういう方向性に動けばいいなと考えています。



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