母乳まで取引する消費者
CtoC(消費者間取引、Customer to Customer)という言葉をご存知でしょうか。多くの会社はBtoBかBtoCといわれ、企業に売るか、個人に売るか、の二択になりますが、その間を縫って今、個人が直接モノやサービスを流通させるCtoCが物凄いスピードで広がっています。最近上場した弁護士ドットコム(弁護士と個人のマッチングサイト)やクラウドワークス(ネット上での仕事のアウトソーシングサービス)、タクシー業界で話題のウーバー(配車サービス)、フリーマーケットで中古品を売買するメルカリやフリルといったアプリケーションも全てCtoCの領域に属するといってよいでしょう。
こうしたCtoCの需要が伸びている背景には三つほどの要因が考えられます。まずは「社会的ロスを有効利用することが格好いい」という大きな流れです。まだ使える中古品(メルカリ)、空いている部屋(Airbnb)、余った食事(Waste No Food)、ひいては余分に出た母乳(!)まで(Only the Breast)余っているものを共有(シェア)しようという発想は近年の大きな特徴です。プロテイン代わりに母乳を飲む男性用も含め、年間142万リットルの母乳が個人間で取引されています。
二番目には技術的なハードルの低下です。スマホの普及で自分の商品やサービスをネットに載せることが格段に楽になりました。物流やITの発達がベースにあることはもちろんです。
そして最後に経済的メリットです。まず消費者間での取引には消費税がかかりませんので、今の日本であればそれだけで八パーセントの値引きと同じになります。また、直接個人がやり取りすることで、ブックオフなどに代表される企業を中抜きすることができますから売り手、買い手ともにメリットが出てくるでしょう。
企業のプラットフォーム戦略
企業にとってのビジネスはこうした取引のプラットフォーム自体を構築することです。この分野で成功している企業は全て、個人間取引の仲介を行う、つまり「取引の場」の提供をしている企業です。古くはヤフーオークションや楽天市場など、総合的なネット市場が急成長しましたが、今は一方で弁護士ドットコムやハンドメイド品を専門に扱う米国のエッティーのようなECサイトといった特殊・専門的なプラットフォームが多く成功を収めています。医師とMRをつなげるエムスリーの「MR君」も同様です。
ヤマダ電機やイオンの苦境に象徴されるように、総合家電や総合●●といったものは今の日本では難しいビジネスになってきています。それは、そこそこのものを万遍なく並べるスタイルより、一点モノ、個性の出るものを探したいという風に消費者心理が変化しており、専門性を高めて一点突破する店舗形態に支持が集まっているからです。もちろんヤフオクや楽天の取扱量も増えていますが、今後は専門的なECサイトと中古品などを扱うセカンダリーECマーケットとの間で独自性を問われることになりそうです。
モノのクラウド化と企業の未来
今後の消費者市場はどうなるのでしょうか。低欲望といってしまえばそれまでですが、社会的なロスを避けてシェアでいいじゃないか、レンタルでいいじゃないか、という流れは続くと思われます。それはエコの価値観にも合致するので、大量生産・大量消費の世界にはもう戻れないということも意味しています。
現在のCtoCビジネスの勃興は、新しい消費者市場の方向性を示しているように感じます。企業が作った商品・サービスを「消費」するのではなく、モノやスキル、サービスをコミュニティ全体で保有し、必要な時に必要な分だけレンタルする、シェアする、そういう社会に向かっているのではないかと思います。いうなれば、情報だけでなくモノもスキルもクラウド化しており、共有財産として好きな時に最高のものを取り出せる、そういうカタチになっていきそうです。
企業や個人にとって、そのように益々モノやスキルがストックされ更新されていく世界で生き残るにはどうすべきなのでしょうか。従来のように「平均より少し上」の商品を出していてはすぐに陳腐化し、ニーズも無くなってしまいます。結局は、非常に付加価値の高いハイエンドでセクシーな商品を出し続けるか、あるいはプラットフォームやホンハイに代表される巨大工場や農場といったインフラに近づくしかなくなっていくのではないか、そんな大きな流れがより早く、より厳しくなっていくように思います。
編集後記
今月から念願のニュースレターの発行を開始しました。ファックス番号が変わりましたのでご注意ください。五月は一週間、マレーシアへの現地視察を実施、東南アジアの風に触れてきました。
六月のテーマは「CtoC市場の拡大」、物流と通信の発達によってどんどん発達している領域です。企業の皆様も気づいたら個人が競合に、という世界もすぐそこ、またマクロの消費行動の変化にも焦点を当てました。
お客様にヒアリングするにつけ、時代の変化をタイムリーに捉えて変化をいとわない人材育成が急務だと実感、弊社の役割も大きいと思って今月も頑張ります!