15-10月号:高まる被買収リスク

包装容器市場で再編進行中

日本の包装容器市場のガリバーといえば、東洋製罐グループHD、アルミ缶、スチール缶、ペットボトル、紙コップの分野で国内シェア一位、ガラス瓶でも日本山村硝子に続くシェア二位につけています(二〇一四年度)。

一方、世界市場では今年に入って包装容器市場で再編の機運が俄かに高まっています。二月には米国のボールと英国のレクサムの合併が発表され、世界最大の金属容器メーカーが誕生する見込みとなり、また七月には米国のミードウェストヴェーコとロック・テンが合併を完了して世界最大の紙容器メーカーが誕生しました(それまではスイスのテトラパックが世界首位)。

実は国内首位の東洋製罐は営業利益率で一~二%と世界のトップメーカーの平均値八~九%から大きく引き離されています。時価総額も相対的に小さく、昨今の再編機運の中で被買収リスクの方が高くなっているのが現状です。食品や飲料メーカーの方がグローバル化してしまい国内の独占的地位にもかかわらずにプライスメーカーでなくなってしまったこと、また製造や調達が国内中心で売上原価や工場の稼働率の点で他社比劣後していること等が大きな要因として考えられます。


世界に取り残される食品業界

同様の問題は日本の大手食品メーカーにも言えることです。国内市場が相対的に大きかった日本では、食品メーカーが国内需要の大きさに甘んじて海外展開が遅れてしまいました。調達も商社頼みでマージンを抜かれ、グローバルでの独自調達ノウハウを蓄積できていないために、世界の競合と戦っていく土俵にないというのが現状でしょう。東洋製罐同様、利益率・売上高成長率ともに低く、まさに「茹でガエル」の様相を呈しています(最近はようやく海外進出に積極的になっています)。

今年初頭のベインキャピタルによる雪国まいたけの買収に見られるように、割安な銘柄に投資ファンドが手を出すこともありますし、ビールメーカー世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブがキリンの買収を狙っているという報道もあります(週刊ダイヤモンド二〇一五・八・二九)。ABインベブは十月十三日に世界二位SABミラーの買収(十三兆円)を発表し益々寡占を強めていますが、キリンを買収すれば日本市場に加え、豪州でシェア二位のライオンネイサンとフィリピン首位のサンミゲルを同時に傘下に収めることができます。世界戦略上、手つかずだった地域を一挙に埋める「定石」ともいえるため、今後の動向が注目されるところです。


グローバル化という波

こうした世界規模の再編をみていくと、もはや国内市場だけに安穏としてはいられず、TPPなどをきっかけとして積極的な海外展開に打ってでなければ生き残れないという事実が明らかになります。もちろん多くの日本企業にとっては、まずは海外勢と伍していくために調達・生産・販売のグローバル体制を構築するという課題がありますが、それも含めてグローバル市場でいかに戦うか、ジャパン・リーグを脱していかにグローバル・リーグで戦うかの中長期の戦略が求められます。

グローバル化は世界規模での一物一価、世界の最適な場所で最高のものを最安値で生産し、需要のある所に最適な物流で運ぶ、そういう世界を実現します。いかに国内で独占的地位を築いていても、顧客がグローバル化してしまってはプライスメーカーになれずジリ貧になってしまいます。TPPの行方は未だ不明ですが、いずれにせよ大きな流れの中で迅速な経営判断が求められます。


編集後記

この十月で無事に会社設立一周年を迎えることになります。ゼロからのスタートではありましたが、こうして継続できていること自体にお客様への感謝を実感しております。本当に有難うございます。

BRICSなどの途上国経済が伸び悩む中、全体として業界の寡占化が進んでいるように感じており、今回はTPPをきっかけとして食品を取り巻く業界動向を取り上げました。毎日の食卓に関わることだけにアンテナを張っておきたいところです。

グローバル経済を利用するのか、利用されるのか。我々のような小さい会社から大企業まで、スタンスが問われています。

前の記事
15-09月号:政治経済を再編する石油一考
2015.09.15
次の記事
15-11月号:疎外の国、沖縄
2015.11.15
ジャーナルTOPへ戻る