15-11月号:疎外の国、沖縄

フクギと普天間

沖縄では昔から防風・防潮・防虫・防火のために「フクギ」という木を植えているそうです。フクギの手前と向こうでは気温が四~五度も違い、火事になってもフクギが防いでくれるのです。ただ、先の沖縄戦で殆んどが消失、昔からのものは一部しか残っていません。琉球王国の文化同様、木陰も沖縄では戦争によって失われてしまった、とウチナーンチュ(沖縄人)は言っていました(有名な首里城も石垣含め殆んど全て再建・復元したものです)。

戦争の遺産という意味では、辺野古への普天間基地移設問題について国と県との争いが一層混迷を深めています。思い起こせば、普天間移設問題の発端は、国と沖縄県が最も理解し合い、互いに県民負担を減らそうと努力した橋本政権でした。当時の米国クリントン政権は真剣に米軍の規模削減を検討していましたが、日本側で普天間返還に賛成だったのが首相秘書官をしていた江田憲司(通産省→現・維新の党)、反対していたのが外務省の田中均、その間に挟まれて橋本龍太郎は基地問題について日米首脳会談で切り出すことができず、最終的にクリントン側から「沖縄の問題で何か言い残したことはありませんか」と水を向けられての議論開始でした。

結局その時は名護市長の比嘉氏が辺野古海上基地建設を容認(同時に辞任)したものの、沖縄県の大田知事が反対を表明し、事態は膠着してしまいます。国もその後、首相交代を繰り返し、民主党の鳩山政権で決定的に国と県との信頼関係が損なわれてしまいました(「最低でも県外」発言)。

米軍基地問題に今のところベストの解を与えることができない以上、より害の少ない(lesser evil)解を模索するしかありませんが、それは沖縄県知事にとって政治的には困難な道かもしれません。大田元知事同様、最終的に「基地に反対」の立場の方が無難であり、決断を国に委ねることで責任を被らないで済ませるという誘惑があると考えることもできます。翁長知事がどこを落としどころと考えているのか注目されるところです。


中台の歴史的会談

沖縄問題と歪な形で相似するのが中国と台湾の関係です。来年一月の総統選挙では野党・民進党(蔡英文)が勝つといわれていますが、その前に馬英九総裁(国民党)が北京政府との定例会談を作っておこうという思惑から今回十一月七日の歴史的会談につながりました(民進党にとっても都合が良いはずです)。

民進党は独立推進といわれますが、中台関係であえて「独立」云々を持ちだすことはないでしょう。あくまで「現状維持(独立問題には触れない)」、それが最善の策のはずで、独立を標榜するけれども現実路線ではない(大前研一に言わせれば「Taiwan as such」)、その中で現実の果実を取る、そこに政治の機微があります。


見果てぬ独立の「夢」

沖縄ではここ数年、「独立」という言葉が今までと違った感覚で語られているようです。台湾は「独立していない」ことによって本土(=北京)からの負担・抑圧から解放されており(台湾の場合、明示的な独立意思を示せば中国と戦争になる)、沖縄は「独立していない」ことによって本土(=東京)からの負担を押し付けられていると感じています。いずれにせよ「本土からの疎外」という点が良くも悪くも二者に共通しているのです。

ところで、この沖縄の独立問題は実は入れ子構造をしています。足元の沖縄で広まる独立への憧憬は、翻って日本の米国依存の問題を浮き上がらせています。沖縄の独立問題はそのまま「日本の独立問題」でもあるのです。

日本は戦後一貫して、経済優先・軽軍備の方針を貫いてきました。国防は日米安保を軸に米国に依存し、自分たちは経済を推進する、そしてODAを通じた経済外交で他国への影響力を保持しようとしてきました。そして冷戦期までそれは確かに大きな成功を収めてきた安全保障政策だったわけです。

一方、時代も変われば環境も変わります。同盟関係は恋愛関係のようなもの、燃える時期もあれば、冷める時期もあります。米国がどこまで日本を強力にサポートしてくれるかは、いかに日本が相互にメリットのある外交政策・軍事政策を立案できるかにかかっているでしょう。

沖縄の問題は結局、日本全体の問題、中国と台湾の問題も決して対岸の火事ではありません。時代の変化に従い、「誰が米軍基地を負担するのか」以前の問題をきちんと整理しなければいけません。


編集後記

東芝、旭化成建材、VWなど、最近は企業倫理の欠如に関する話題が多く非常に残念です。背骨の入っていない仕事が増えているのかもしれません。

十月に沖縄に伺った関係で今月は沖縄問題を扱いました。沖縄にとって基地問題は非常にセンシティブな問題であって、なかなか話題にしづらい雰囲気がよく分かりました。地上戦を経験した唯一の土地であることも大きく影響しています。

目まぐるしく変わる情勢、移り行く人心、積み重なる歴史の重みの中、錐で壁に穴をあけるように少しずつ少しずつ問題の解決に向けた努力を行う、それが政治の役割です。

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