国旗投票の行方
今月は長らく懸案となってきたニュージーランドの国旗に関する最終の国民投票が行われます。ユニオンジャックを冠した現行の国旗か、黒と青を基調に同国に自生するシダ植物と南十字星をあしらった変更案、どちらを選択するか国民の意思が示されます。
「シティ・オブ・セイルズ(帆の町)」、オークランドを玄関口として日本から約十時間、南半球のニュージーランドは世界中から多くの人種を集めています。暖かな気候と豊かな自然を背景に、国民一人当たりのヨット保有台数とゴルフ場の数は世界一、空港ではハイキングや山登りを目的にした集団を目にすることでしょう。
もともとこの島国を「発見」したのはオランダで、「新しい海の国(英語ではNew Seeland)」と呼ばれました。その後、十九世紀半ばに英国の植民地とな
り、今でもイギリス連邦王国の一部を構成しています(政治的には一九四七年に独立、立憲君主制)。
移民の国として人種の坩堝(るつぼ)でもあり、町には多くの言葉が飛び交います。アジア諸国を旅するよりも遥かに自分を「外国人」と意識せず生活できるのも、「作られた国」としての歴史を感じさせます。
一次産業の国
豪州の産業が「土の下(=鉱業)」だとすれば、ニュージーランドの産業は正しく「土の上(=農業、林業、酪農)」だということになるでしょう。大きく分けて、北部は酪農、南部は農業、加えて林業と観光というのがニュージーランドの産業といえます。林業に関しては、土地柄成長速度が非常に速く、日本の商社も多く進出しているところです。
ニュージーランド最大の企業といえばフォンテラ(Fonterra)という乳業メーカーです。協同組合ではありますが、ネスレ、ダノン等に続いて乳業で世界第四位の売上高(約二兆四千億円)を誇っています(ラボバンク、二〇一四年)。ニュージーランドの輸出金額全体の約二五%を担うこの企業は政治的な存在感も大きく、昨今のように乳製品の国際価格が下落すると、政府も金利を下げるなどしてニュージーランドドルを調整することになります(輸出競争力を維持するため)。その意味では、ニュージーランドドルの趨勢はフォンテラを介して乳製品の国際価格に大きな影響を受けています。
キィウィの国と日本への示唆
先般のTPP交渉では、甘利前大臣がニュージーランドのせいで合意ができない、と発言して突如世間の注目を浴びましたが、そもそも相手のグローサー貿易相は世界貿易機関(WTO)にウルグアイ・ラウンド(一九八六~九四、当時はGATT)から関わっている国際通商の生き字引で、WTO事務局長の最有力候補になったこともある人物ですから、実力の次元が違ったという方が正しいでしょう。確かにこの国は英国との繋がりからか、優秀な人材を輩出しています。
とはいえ、基本的に国民性はキィウィ(ニュージーランド流)、お隣のオージーと異なりのんびりとしています。二〇一一年に起きたカンタベリー地震からの復興もまだ進まず、南部クライストチャーチも依然として地震から回復していません。電力は水力や地熱を中心に八割を自然エネルギーで賄っていますが、逆にいえばその位の産業の規模感ということでしょう。それでも国民一人当たりGDPは四万ドルを超えています(日本は三万二千ドル、二〇一五年予想)。
これは人口や為替など様々な要因が絡みますが、一つ大きな違いを挙げれば、ニュージーランドには相続税がないという点です。移民をしてきて、子供の代になれば住む家や土地はそのまま受け継がれ、稼いだ収入は基本的にそのまま可処分所得となります(もっと言えば、贈与税もキャピタルゲイン課税もありません)。課税のあり方は様々ですが、経済を循環させる妙薬にも毒薬にもなるものです。こうした国の税制と経済のあり方も大いに参考になるのではないでしょうか。
編集後記
一月半ばに夏のニュージーランドに視察に行きました。「特徴がないところが特徴」のようなところに、移民国家の歴史を感じます。
アメリカでは大統領選がヒートアップしておりますが、この国では「国旗」が国民投票の対象になっています。アイデンティティというほど大げさなものではないものの、落ち着いてそのよのような議論ができるところに一定の成熟社会を感じています。
交通の便もそれ程良くなく、一次産業しかない国にもかかわらず、なぜ一定の繁栄を享受しているのか、今後どう国家戦略を描くのか、同じ島国日本にも参考になるように感じました。