宇宙開発の転換点
宇宙というものは最後のフロンティアであり、国家的な戦略分野であり、また各国民の夢を掻き立てる対象でもあります。
日本における宇宙政策の歴史は科学技術庁や気象庁、東京大学を中心に進められてきました。戦後から一九八〇年代までは基礎研究に加え、民間向けのアプリケーション開発(通信・放送・気象)も進められていましたが、一九九〇年代に入って日米貿易摩擦の影響から民需部門は撤退(日本独自の人工衛星開発の抑制など〔日米衛星調達合意〕)、その後は基礎研究のみが宇宙政策の中心になりました。
ところが、二〇〇八年に「宇宙基本法」が成立し、宇宙政策は転換点を迎えます。内閣に「宇宙開発戦略本部」と「宇宙担当大臣」(現在は鶴保庸介氏)が設置され、二〇〇九年に初めて「宇宙基本計画」が策定されました。今までの基礎研究を中心とした体制から宇宙の利用・活用へ方針を転換し、社会的な課題への解決策として宇宙をいかに使っていくかに注目していくことになります。
こうした転換が起こったのも、地球規模の様々な課題に対する技術革新が世界的に期待される中、人工知能やビッグデータ等に加えて宇宙開発が一つの方策として注目されているからです。従来であれは宇宙開発といえば人工衛星による気象観測や衛星放送通信、GIS(地理情報システム)でした。しかし現在では応用分野として、宇宙太陽光発電(地球温暖化やエネルギー問題への対応)、宇宙医学(宇宙ステーションで医学・生物学実験を行う)、あるいは衛星を活用した災害管理などの研究や実用化が進展しています。また、研究の進展と同時に、宇宙放射線や地磁気嵐(太陽フレア等によって起こり、地上の送電システムにも影響する)といった新しい技術的問題やスペースデブリ(宇宙ゴミ)といった課題も認識されるようになっています。
宇宙基本法ができたとはいえ、日本の宇宙機器産業は殆どが官需であり、宇宙開発の先進国と比べて民需や輸出の割合が非常に低いのが現状です。まだまだビジネス展開を行うような段階ではないと言えるでしょう。
宇宙産業の特徴
宇宙産業はビッグサイエンス(巨大科学)です。莫大な投資が必要であり、リスクも大きく、そして投資回収に時間がかかります。冷戦時代には米ソが中心となり競争を繰り広げていました。しかし近年ではもはや米ロだけでなく、多くの国が宇宙開発に予算を割いています。また、政府だけではなく、民間企業の参入も顕著になってきました。テスラ・モーターズのイーロンン・マスクが経営するスペースXやアマゾンのジェフ・ベゾスが経営するブルー・オリジンなど、宇宙を対象とするベンチャー企業も珍しくなくなっています。またそれだけ私たちの生活に対する宇宙投資の社会経済的インパクトが増大しているということでしょう。GPSの利用や災害時の被害マップなど、宇宙技術は益々生活に密着し、だからこそ重要視されてきているのです。
日本の宇宙起業家たち
日本でも宇宙産業に乗り出している起業家は存在します。例えばアストロスケール(二〇一三年創業、産業革新機構が約三十四億円の出資を決定済)の岡田光信氏は先述したスペースデブリ(宇宙ゴミ、古い人工衛星やその破片、宇宙飛行士が捨てた用具など)の除去をビジネス化しようとしています。地球の周りには現在二万三千個の人工物が漂っていると言われますが、そのうち稼働しているのは千個に過ぎません。探査の安全性や衛星スペース確保の観点から、今後益々宇宙におけるゴミ収集が大きな課題となる中、アストロスケールはスペースデブリ観測衛星を世界で初めて打ち上げようとしている宇宙ベンチャー企業なのです。
また、アクセルスペース(二〇〇八年創業、資本金約二〇億円)の中村友哉氏は民間でも使える超小型衛星を開発しています。これはリモートセンシング(遠隔測定)をより身近に使えるサービスにしようとするものです。米国では既に衛星解像度五十㎝の制限撤廃を行っていますが(二〇一四年)、今後はどの国も規制より産業化に舵を大きく切っていくことになるでしょう。
グローバルからコスミック(cosmic、宇宙の)時代へ。多くの冒険者たちが宇宙空間を目指して発進しています。
編集後記
銀河鉄道スリーナインやガンダムを引き合いに出すまでもなく宇宙は人々の夢や空想を膨らませてきました。今月はそんな宇宙をテーマに世界の流れを追いかけています。
宇宙自体は地上と異なり国家間での決め事も未定のことが多く、より早くイニシアティブをとって自国の主張を発信することが重要です。当然軍事目的の利用も想定されるため、国益のぶつかり合いも想定されるところです。
とはいえ、近年は民間企業が次々と宇宙分野に参入しています。この戦略的分野に対し、何を想定し、どのように物事を進めていくか、日本の針路が問われます。