17-05号:水道、効率化への道

造る、から保つ、へ

水道法の改正案が提出されています。今国会で成立するかどうかは分かりませんが、既に閣議決定されており、早晩成立するでしょう。この改正では、法律の目的を「水道の計画的な整備」から「水道の基盤の強化」に変更するもので、水道が「造る時代」から「維持管理する時代」へとシフトすることを意味しています。具体的には水道事業の統合・広域化や官民連携を謳(うた)っており、より効率的な水道運営を目指しています。

実際、直近の水道普及率は九七.九%(二〇一五年)、また下水道の普及率は八十九.九%(同、汚水処理人口普及率を参照、下水道のほか、農業集落排水施設や浄化槽なども含む)となっており、設備の老朽化も進んでいることから適切な維持管理が益々重要になってきています。


水の特性と循環

水という身近な存在ですが、化学的には面白い性質を持っています。水素結合由来の高い沸点のおかげで私たちは液体としての水を扱えます。水の分子量は十八と、例えば二酸化炭素(分子量四十四)よりも軽いですが、二酸化炭素は気体として存在し、水は液体として存在しています。無機物・有機物の両方を溶かすことができるという点で溶媒としても珍しく、洗濯に適しているだけではなく、私たちの身体の六十%が水であるのもその賜物といえるでしょう。

さて、そのような水に関して水(すい)文学(もんがく)という学問領域があります。地球や地域の水循環(降る・流れる・蒸発するなど)の研究です。地球上には約十四億㎦の水があると言われますが、その循環の速さは場所によって異なります。日本の河川は一~二日で入れ替わりますが、地下水の循環には数十日~数万年も時間がかかり、一回汚してしまうと中々元に戻すことができません。会計ではありませんが、水利用もストック(存在量)とフロー(交換量)で考えていく必要があるのです。

日本は基本的に雨や河川などの表流水に依存した水利用を行っています。一年間で約一六九〇㎜、私たちの身長分くらいの雨が降り、私たちは一日当たり平均で三五〇ℓ程度の水を使用しています(家庭では二五〇ℓ程度)。日本全体の生活用水を一とすれば、工業用水は〇.七五、農業用水は三.五七程度の利用であり、工業分野では水の回収・再利用が進んでいるといえるでしょう。カリフォルニアでの水不足が最近問題になりましたが、やはり農業に使う水資源は莫大です。ただ、水田の場合は上流から下流へと水を流し、同じ水を再利用しますので、ネットの利用量は少なくなる等、違いもあります。


水道事業の効率化と民間の参入

日本の水道事業は市町村レベルで行われており、極めて事業体が小さいのが特徴です。水道事業体は八千五百程度ありますが、そのうち給水人口五千人以下の簡易水道事業が八割、五千人より多い上水道事業の中でも更に給水人口五万人以下の小規模事業体が七割を占めています。一方、東京都一千三百万人に対しては東京都水道局が一手に給水を担っており、その効率性の違いは驚くべきものです。海外の例でいえば、オランダは一千七百万人の人口を十の事業体で対応、イギリスも十の事業体で運営しています。

今後人口減少が進む中、水道収入の減少、維持管理費用の増大、技術継承の困難化など、どうしても効率化を進めていかねばなりません。その一環として今回の水道事業の広域化・官民連携などを目指した水道法改正があるのです。

日本の水道は世界的にも質が高く、どの蛇口をひねっても飲用として利用することができます。日本企業の水関連技術は膜技術を中心にレベルが高く、海水淡水化など海外でも多く利用されていますが、水道事業の包括的な運営ノウハウがないため、技術+運営管理のパッケージとして水道事業を売り込むことができていません。その意味で今回の法改正は、将来的に水道事業の輸出力強化も狙っているといえるでしょう。一方、インフラ事業を民間企業に委ねることは安定供給の観点からの懸念もあり、バラ色の未来を描くわけにはいきません。イギリスでも民営化の際は様々な問題が起きました。

日本は水資源に恵まれた国ですが、環境の変化は予断を許しません。温暖化が進めば雨の降り方が変わり、水環境も変わります。未来の不確実性を見据え、持続可能なシステムを構築していかねばなりません。


編集後記

関東は荒川水系・利根川水系に取水の殆どを依存しています。人口減少時代の公共サービスをどう考えるか、今回は水道を扱いました。水は治水、利水に留まらず、私たちの生活に大きな影響を持っています。

日本の水道事業が統合できない背景には、市町村ごとに料金体系が違うということがあります。ただ、しばらくは料金据え置きで統合を優先した方が良いでしょう。両者は別の問題です。

少なくとも水道は県単位での運営、上下水道は一体管理になっていくはずです。新しいシステムを使った効率管理は今の時代、それほど難しくないのです。

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