17-06号:鉄道車両の世界

鉄道車両メーカー

毎日通勤や出張に使う電車や新幹線ですが、その「車両」に目を向けたことはあるでしょうか。実は完成車両を製造するメーカーは日本に五社しかありません。日立製作所、川崎重工業、近畿車輌、日本車輌製造、そして総合車両製作所(旧東急車両)です。日立・川崎重工を除く三社は系列化が進んでおり、近畿車輌-近鉄、日本車輌-JR東海、総合車両-JR東日本と資本関係にあります。

各製造工程で一日一両分ずつ順繰りに製造し、納品する。部品メーカー含めた「ピッチ一」と呼ばれるスタイルでは、最終的に毎日一両ずつ完成車両が出来上がります。やや複雑な特急車両であれば二日で一両分の納品(ピッチ二)、これが業界慣習です。


クルマづくりと違う

日本で「ものづくり」といえばまず自動車産業が想定されますが、鉄道車両は同じ「車両」でもその生産形態が全く異なります。特に生産ボリュームの違いは大きく、国内だけで年間一千万台弱の生産がある自動車と異なり、鉄道車両の殆んどは一点モノ、ある意味で究極の多品種少量生産と言えるからです。お気づきの方も多いかもしれませんが、東海道新幹線十六両編成の場合、その十六両は全て異なる車両です。グリーン車やトイレ、多目的ルームの配置、座席位置等、よく見ると全て違う車両であることに驚かれるでしょう。ましてJR九州の「ななつ星」や、JR東日本の「TRAIN SUITE四季島」などの豪華列車はほぼ一編成しかなく、メーカーとしては一回しか造る機会がないものです。

従って、自動車産業では「カイゼン」として効率的大量生産のモデルが進化しましたが、鉄道車両の世界はまだまだ牧歌的、一両一両手作りするイメージといっても過言ではありません。従って、新しい通勤車両を百両作るとすれば、最初の一両は本当に初めて造る一両目、最後の一両はそれなりに慣れてきた百両目ということで品質レベルがどんどん向上していく世界なのです。自動車製造には全車両に対する完璧性や同質性に強いこだわりがありますが、鉄道車両では一点モノ故の「ゆらぎ」(あるいは「個性」)がある程度認められているのです。

鉄道車両の素材はスチール、ステンレス、アルミなどですが、用途に応じて使い分けられます。アルミなどは軽い一方で曲げなどの加工が難しいため、新幹線や特急列車のように速度が求められ、かつドアが前後二つしかないような(加工度の低い)車両に用いられています。


グローバル企業と鉄道輸出

世界的な鉄道車両メーカーとしては、ボンバルディア(カナダ)、シーメンス(独)、アルストム(仏)がビッグスリーとして有名です(全て巨大企業で、アルストム以外は鉄道の他、航空機や発電など様々な分野を手掛けています)。一方、中国では国営の中国北車と中国南車が二〇一五年に合併し、中国中社として世界最大の鉄道メーカーとなりました。世界の鉄道関連市場が今後拡大すると予測される中、足許ではボンバルディアとシーメンスが鉄道関連事業を統合するとの報道も出ており(四月十一日、ブルームバーグ)、世界的な再編が予感されています。

日本企業の海外進出について、日立製作所が英国の高速鉄道車両の製造・保守を受注しており、これを足掛かりに欧州展開を進めていきたいところですが、英国のEU離脱(Brexit)の影響が大きく、今後の展開は不透明です。また、インドネシアのジャワ島高速鉄道について、中国との受注競争に負けたことも記憶に新しいでしょう(インドネシアは再度日本に協力を要請している模様です)。鉄道分野はインフラ事業として機会が大きいだけに各国がしのぎを削っています。

現在海外において求められる鉄道関連サービスは車両製造だけではありません。車両や線路のみならず、信号や運行システムなどの運営・保守サービス含めたパッケージでの輸出が不可欠です。しかし日本ではその機能を一社で担う企業がないため、どうしても輸出競争力が落ちてしまいます。鉄道会社や商社などが音頭をとってコンソーシアムを組むなどの取組みが求められるのはその為です。

国内市場が飽和していく中、鉄道車両ビジネスも世界的な競争環境に巻き込まれていかざるを得ません。自ら挑戦し、変化していく覚悟が求められます。


編集後記

お陰様でこのニュースレターも三年目に入りました。これもお客様に支えていただいているからこそであり、心より御礼申し上げます。

今月は最近鉄道車両メーカーの工場見学をさせていただく機会があったため、普段触れない鉄道車両業界を扱いました。最近のニュースのように、新幹線や山手線に防犯カメラを設置するためには車両メーカーの活躍が必要です。

先月の水道業界もそうですが、インフラ輸出には運営管理全般までを総合パッケージとする必要があります。個別企業を超えた大きな視野と強いリーダーシップが求められます。

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