中国の知的台頭
技術革新の源泉となる科学研究論文で、コンピューター科学や化学など四分野で中国が世界トップに―――。人工知能の分野でも中国の存在感は日に日に大きくなっており、「米国一強から『米中二強』の時代に突入」(日本経済新聞、二〇一七年六月十二日)と言われています。
中国の強さは何といってもその人口の大きさでしょう。出生人口が減り続ける日本を尻目に、中国では二〇〇四年以降出生数が下げ止まり、足元では回復の兆しを見せています。
経済力の向上に伴って大学進学や海外留学する子弟が急激に増える中、「八〇(パーリン)後(ホウ)・九〇(チウリン)後(ホウ)」(八〇年代・九〇年代生まれ)と呼ばれる若い青年層(現在の大学生・大学院生)は知的労働者への転換を果たしています。
中国の大学
北京大学や清華大学といった中国の有名大学は清朝の時代から続くものも多く、歴史があるものです。一九五二年の教育体制の転換に伴い、北京大学は文理総合大学へ、清華大学は工科大学へと転換し、この時点で中国の大学は「文理総合大学系」か「工科大学系」に整理されることになりました。日本では知られていませんが、有力な省には良い大学があり、トップ三十六の大学を出れば就職に困ることはまずありません。北京大や清華大の入学倍率は千人に一人弱、東京大学の倍率が二百人に一人程度ですのでその競争の激しさが分かるというものです(大学自体は二五〇〇校以上存在します)。
中国の大学の大きな特徴は全寮制という点です。これは学生の管理の観点から採用されたものですが、四~六人部屋で四年間共同生活を送ります。これは大学生の数が急増した際にも維持され、結果として青年たちへ一種の社会教育を施す機能を果たしています。共同生活を経た学生たちは、否応なく社会性を身につけ、「極めて穏当、健全、礼儀正しい」(東京大学北京代表所所長・宮内雄史氏)と言われています。
国際社会のハブになる人材へ
中国から海外へ行く留学者数も年々増加しており、今では米国在学の三十%、世界の留学生総数の二十五%を中国人留学生が占めています。また、海外から中国へ来る留学生も増えており、直近で四十四万人強が中国へ留学し、その出身国は多岐に亘っています(日本の海外留学生は二〇一六年で二十四万人、うち十万人は中国出身、次がベトナム、ネパールと続く)。
重要な点は、こうした中国と世界との学生の交流が増える中、彼らが将来その国と中国とのパイプ役を担うであろうことでしょう。既に米国だけでなく、英仏独・カナダ・豪州・韓国・タイなどでは留学生のうち中国人学生が最も大きな割合を占めていますし、中国へ留学した外国人学生は将来(知日家ならぬ)「知『中国』家」になるでしょう。相手をよく知ることが理解および信頼の第一歩であることを考えれば、こうした世界の一流大学における知的ネットワークの大切さは言うまでもありません。
世界最大の投資ファンドであるブラックストーンの創業者、スティーブ・シュワルツマンは二〇一三年、私財を投じて清華大学に三億ドルという世界最大の奨学金を設定しました(シュワルツマン奨学金)。これは清華大学における一年間の修士プログラムですが、「中国を理解し、世界をリードできるリーダーの育成」として今後五〇年にわたって一万人の学生を輩出するとしています。北京大学でも二〇一四年、華僑を中心に燕京学堂が設立され、「英語による中国学」修士課程に奨学金が設定されました。いずれも世界中(中国含む)から人材を集め、国際社会での相互理解を促進しようとするものです。
年内にも中国・華(ファー)為(ウェイ)技術が日本に工場を新設します。中国企業が日本に進出し、日本企業を買収する時代、私たちは中国に対して単なる印象論ではなく、そのパワーとその源への正しい認識を持つ努力が必要です。
編集後記
「ジャパン・パッシング」といわれ、「ネクスト・イズ・チャイナですよ」と言われた大学時代に比べ、中国の存在感は益々大きくなっています。
「国益とは選択肢の数である」と大学時代の師に教えられた身として、中国の経済力と人口が今、その選択肢の数を否応なく増やしていることを感じます。中国で出生数が下げ止まっている事実には正直驚きを隠せませんでした。
日本において中国の生の情報を手に入れることは簡単なことではありません。知らないことは不安を誘発し、不安は敵意を産み出します。実際の中国を真剣に見据えることが大切です。