消費者像が変わった
「日本の消費者像」というとどんなイメージを持つでしょうか。デフレマインドが染みつき一人当たりの支出額も九十年代から横ばい、人口減少と相まって国内消費は回復する兆しが見えない。こんなイメージが一般的なところかもしれません。
しかし、一方で成長著しい新しい市場が生まれているようです。越境ECや訪日外国人のインバウンド消費と言われるものです。これらはGDPの統計上は輸出にカウントされており民間最終消費支出には入ってきませんが、実は大きな国内消費として注目を集めています。例えば越境ECについて、日本から米国へは六千億円超、中国へは一兆円以上の品物が購入されており(二〇一六年)、訪日外国人の国内消費については、買い物とサービスだけでも一.五兆円(同年)に上っています。スポーツ用品やペットビジネスの市場規模が一.五兆円程度、語学ビジネス市場が八千五百億円程度と考えれば、同等以上の市場が突如として出現しており、しかも今後も伸びていくとされているのです。私たちは対象とする消費者像について、デジタル消費やインバウンドなどを含めて視野を広げて見る必要があるようです。この湧き出た新しいビジネスチャンスをどのように捉えるか、各企業がその姿勢を問われています。
訪日外国人の増加を狙う
中でも、政府が二〇二〇年に四千万人と目標を掲げる訪日外国人はもっと注目されてよい市場でしょう。直近(二〇一六年)で二千四百万人の訪日客を数えましたが、二〇一二年が八百三十万人であったことを考えれば、四年で三倍の駆け上がりを見せています。もはや小売企業は海外進出する必要はなく、日本で訪日外国人を待っていればよいという人まで出てきている状態です。
こうしたブームの牽引役は何といってもアジアからの訪日客の増加です。中国本土からは二〇一三年に百三十万人であった訪日客が、二〇一六年には六百四十万人と三年で五倍に急増しています。訪日している中国人は全中国人のわずか〇.四%に過ぎず、中国人の渡航先ランキングでまだ日本は一位ではありません(一位はタイ、二位は韓国)。再訪意欲も強く、まだまだ成長の余地があるものと考えられます。
爆買いが終わったというニュースはありますが、それはあくまで鞘取り業者のニーズが越境ECで失われただけであり、本当の意味での訪日外国人のインバウンド消費は健在だろうと思います。同時に、私たちはより精緻に訪日外国人のニーズをくみ取る努力をしなければなりません。和食が身近になったといっても、殆どの外国人にとって生魚はサーモンしか食べられません。アジアの旅行客には懐石のような小出しの食事よりもビュッフェで山盛りの料理の方が好まれます。当然ながら中国人とベトナム人の好みは違い、ゴールデンルートもまたそれぞれで異なるでしょう。一回目の訪問とリピーターでは観光ニーズが違うでしょうし、近年は一般に「モノ(商品)」から「コト(体験)」へと関心が変化しています。パックツアーから個人旅行へ、あるいはホテルから民泊へと、マスで顧客を捉えるというよりも小さいニッチを深く掘り下げるビジネスが求められています。
北海道のニセコは訪日外国人向けに成功している先駆的な事例でしょう。こちらは豪州やアジア系を中心に外国人資本による開発も進み、高級コンドミニアムやマンションが海外に売れています(二〇一六年の基準地価上昇率は二七.三%で全国一位)。訪日外国人向けビジネスといっても様々であり、旅マエ・旅ナカ・旅アトのニーズを丁寧に追い、単なる民芸品販売や民宿といった固定概念ではなく、より付加価値の高いビジネス展開を構想する必要があります。
編集後記
段々と秋めいて参りました。季節の変わり目ですので皆さまお身体ご自愛ください。
今回は今更感もありますが、訪日外国人を扱いました。観光庁からも精度の高い資料が公開されるようになり、より解像度高く訪日客を見られるようになっています。
長くデフレに苦しむ日本にとって訪日外国人の増加という現象は干天の慈雨のようなものです。地方創生にも大きな役割を果たすでしょう。日本が成熟国家としてどのような存在になるか、単なるビジネスニーズだけではなく、これからも尊敬される国であるための国家戦略として考えていきたいと思います。