18-04号:税金システム再考

二十七年ぶりの恒久国税

昨年から話題になっていた出国税(国際観光旅客税法)がこの四月十一日に国会で可決し、成立しました。これは日本から出国する時に一人千円を課すもので、日本人か外国人かを問いません。総額で四百億円程度と見込まれますが、恒久的に徴収する国税(恒久税)は一九九二年の地価税以来実に二七年ぶりのこと、訪日外国人が増加する中で新しい財源を見つけたい政府の意思の表れでしょう。

百兆円に近い国家予算や税収ビッグ・スリーの所得税、法人税、消費税に比べれば余りに微々たる数字ですが(上記の三税は各十~二十兆円)、その使途は(一)快適な旅行環境の整備、(二)日本の魅力についての情報発信強化、(三)地域固有の文化・自然など観光資源の整備、の三つとなっており、何にでも使える玉虫色の財源となっています。


税金と所得再配分

税金とは、公共サービスを享受するために国に納めるものです。原則的には目的に応じて都度集めるものですから、予算は単年度会計として都度締める形になっています。公共の目的のためという意味では、社会保険料や高速道路の料金、あるいは農業保護による高い農産品価格もすべて「税金」として考えるべき対象といえるでしょう。

税金に関する問題は色々ありますが、枝葉末節の技術論が多く、税金を正面から議論しているものは意外なほどに少ないものです。日本の税制についてまず指摘すべきは、税制そのものの中に「所得再分配」の思想が大きく埋め込まれているということでしょう。典型的には所得税の累進課税や相続税の存在ですが、これら富裕層直撃の税制のお陰で日本において極端な資産家というものはほぼ存在しないと言ってよいほどです。

最近亡くなった渡辺昇一氏は、一貫して所得税一割への一本化を唱えていましたが、同時に今の税制システムが「日本人を卑屈な、矮小な人間にしてしまった」と指摘しています(『歴史の鉄則』)。何かを使う時は領収書をもらわないと、と考え、大きく稼ごうとしたら税金が高くなるからそんなに稼がなくても、と思ってしまう、確かにそういう心情は私達にはあるかもしれません。同氏は同様に相続税が文化を破壊すると主張します。親の家屋敷を相続しただけで莫大な相続税がかかり、結局その歴史的な日本家屋を売り払って更地にしなくてはいけない等の事例は枚挙に暇がありません。曰く、「どんな暴君もなしえなかった暴挙」を今の税制は行っているというのです。

所得再分配の議論は戦後の社会主義の浸透の中で当然視されてきたものでもありますが、本来的には社会保障で対応すべきものです。徴税は一律公平に行い(富裕層も貧困層も同様に)、文化的生活の保障は社会保障制度を整備すべきであって、両者を混同してはいけません。また、所得再分配そのものも欧米の寄付文化のように個人から個人へと自由意思で行う方が効率的かもしれず、国家が一括して行うことの非効率性はハコモノ行政の末路を見れば十分明らかであろうと思います。


大きな政府、小さな国民

政府は富を生み出しませんから、結局「大きな政府」は「小さな国民」につながり、「小さな政府」は「大きな国民」につながります。英国病と揶揄されたイギリスが復活したのはサッチャー政権の下、小さな政府に切り替えたからであり、それは米国のレーガン政権も同様でした。今のトランプ政権が行った大減税も、恐らく歴史に残る政策となるでしょう。昨今、パナマ文書やパラダイス文書のような「節税」関連のリークが騒がれますが、語弊を恐れずに言えば、人間や会社が悪いのではなく、逃げようと思わせる税制が悪いということを私たちは理解する必要があるのです。

サッチャー曰く、「強者を弱くすることによって、弱者を強くすることはできない」、「給料を払う者を潰すことによって、給料をもらう者を助けることにはならない」。そして何より、「人の自発性や創造性を奪うことによって、人格や勇気を涵養(かんよう)することはできない」のです。日本も税制改革が必要なのは間違いありませんが、小手先の収支を埋める議論でなく、哲学を持った対応をしていきたいものです。


編集後記

出国税の成立に関連して、日本の税制について簡単に扱いました。

働き方改革の議論についても、本来的には人間の創造性ややりがいをいかに引き出すかという方向性で考えなければなりません。国や社会の富をいかに増やしていくかという観点で言えば、労働時間に終始する議論はいかにも貧困といえるでしょう。

税制についても同様です。極論すれば、共産主義は税率百%の世界です。その歴史的実験が失敗したことは明らかですが、その残滓(ざんし)は至るところに存在しています。私たちは自覚的にどうあるべきかを設計し直していく必要があるでしょう。

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