18-05号:武田、経営者の孤独

日本史上最大の買収

武田薬品工業の大型買収が世間を賑わせています。孫正義のARM社買収三、三兆円を大幅に超える六、八兆円でアイルランドのシャイアーを買収することで合意しました。シャイアーは一九八六年創業、当時は四人で始めたバイオベンチャー(骨粗鬆症分野)でしたが、大型買収を重ねて二〇一七年には武田薬品と売上高で同規模、時価総額では武田薬品を上回る規模にまで成長しました。主に注意欠陥及び多動性障害(ADHD)、過食障害、ヒト遺伝子療法、再生医療、さらに、消化器系疾患や腎臓病など、希少疾患の医薬品や難治性疾患に用いる薬を開発している会社です。元々英国の会社ですが、二〇〇八年に英国政府が特許使用料課税を打ち出すと、本社を英国からアイルランドのダブリンに移転するなど、租税回避に敏感な会社でもあるようです。

製薬業界(新薬)ではパイプライン(新薬候補)を確保するため、盛んに買収合戦が繰り広げられています。それは日本の武田薬品工業も例外ではなく、近年にはミレニアム(米国・九千億円)、ナイコメッド(スイス・一、一兆円)、アリアド(米国・六千三百億円)と大型買収を繰り返してきました。グローバル化は創業家の武田國男氏(先々代社長)からの方針で、その後長谷川閑史、クリストフ・ウェバーへと引き継がれています。ウェバー社長は二〇一四年、競合の製薬大手グラクソ・スミスクライン(英国)から招聘された経営者で、現在の武田薬品工業のエグゼクティブ・チームは一四人中十一人が外国人となりました。


プロ経営者の轍(わだち)

クリストフ・ウェバー氏はいわゆる外部招聘経営者、通常「プロ経営者」と呼ばれる人間と言ってよいでしょう。一般に前任社長や企業オーナーから成長の実現を任され、しがらみが無い分、大型のM&Aやリストラ等の大改革を起こすことができます。プロ経営者の「解任」についていえば、実際のところ「業績」はそれほど関係なく、実質的な権限者(例えば企業オーナー)の「ご機嫌次第」といったところが真実であろうと思います。

ここで注意したいことは、LIXIL(潮田氏)やサントリー(佐治氏)、ベネッセ(福武氏)など、創業家オーナーが君臨している企業では「解任」というプロ経営者への牽制が存在しますが、日産など創業家の存在が薄い企業ではプロ経営者への牽制が効かなくなるということです(カルロス・ゴーン氏の功績は大きいものの、彼を止められる人はいないでしょう)。武田薬品工業の場合、現状では恐らく後者、先代社長が独自の嗅覚で招聘したウェバー氏を止めることができる人は中々いないでしょう。強権を持つリーダーは変革期に必要ではありますが、プロ経営者の場合は内部の古参社員と感情的な軋轢が存在します。それを乗り越え、名経営者としての称賛に変えることができるか、ウェバー氏の力量が試されています。


編集後記

日本史上最大の買収案件が話題になっています。こうした動きは世界的には珍しくありませんが、武田薬品が「日本の」会社ではなくなってしまうことに寂しさを覚える人もいるでしょう。

案件を進めるうえで投資銀行や証券会社はディールが「成立」しなければ収益があがりませんから、基本的にGOのスタンスを崩すことはないでしょう。こうした意思決定をする際に、経営者はとにかく孤独であり、長期的な視点で腹を括る必要があるでしょう。

武田はここからがスタート、まさにグローバル企業として歩き始めたように感じます。ここからが茨の道です。

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