三期連続赤字の三陽商会
日本でバーバリーブランドを広めた立役者といえば三陽商会ですが、ブランド戦略の違いから両社は袂を分かち、二〇一五年七月以降バーバリーは直営店での展開となっています。三陽商会はバーバリーを失った後、マッキントッシュロンドンやポールスチュアートといった新しいブランドで再起を図りますが、結果的には二〇一八年十二月期で三期連続の営業赤字に沈むことになりました。売上高も十年前の半分以下(五百九十億円)と、バーバリー一本足であったツケがここで如実に表れたといえるでしょう。
そもそも三陽商会だけでなく輸入代理店ビジネスは、参入当初こそその国で販路を持つ現地企業と提携しますが、知名度が上がってきたタイミングで自前に切り替える誘惑が常にあり、本質的に契約打ち切りのリスクを 孕むといってよいでしょう。最近の事例では、ヤマザキナビスコから発売されていたリッツやオレオのライセンス契約が二〇一六年八月末で終了し、モンデリーズ(旧ナビスコ)の日本法人が販売することになりました。他にも同年三月に明治から出ていたうがい薬「イソジン」のライセンス契約を、ヨーロッパのムンディファーマが解消しています。三陽商会のバーバリーとの契約は四十五年間、山崎とナビスコは四十六年間、明治はイソジンを五十五年間に亘って育ててきた経緯があります。
三陽商会とバーバリー
三陽商会とバーバリーについていえば、英国でのバーバリーがハイエンドのラグジュアリーブランドであるのに対し、日本のバーバリーは普及版で若い女性向けにブルーレーベル等を販売していました。欧米の高級ブランドの主戦場が日本から中国などに移っていく中、英国と比べて半額程度の日本版バーバリーがブランドイメージを毀損するとの判断のもと、英国本社は契約打ち切りという方向性へと動いていきます。バーバリー全体の売上高に比べて日本からのライセンス収入も三%程度に過ぎませんでしたので、ブランド全体に与える影響に対して価値が小さいと判断されたのでしょう。
日本ではバーバリーを広めた三陽商会に対する仕打ちに同情的な向きもありますが、同時に第二・第三のブランドを育ててこなかった三陽商会の甘さも指摘されるところです。輸入代理店ビジネスが本質的にリスクを抱えるものである以上、そこに依存し過ぎない経営を行うのは当然ともいえるでしょう。ブランドの育成には時間が掛かりますので、一朝一夕にバーバリーレベルのブランドができるはずもありません。
グローカル ~部分と全体の相互作用
ところで、少し目線を変えるとネスレ日本やコカ・コーラジャパンが参考になるかもしれません。世界的に広がりを見せるネスプレッソはネスレ日本でのイノベーションが世界に逆輸入される形をとりました。また、コカ・コーラにしても健康志向から世界中で炭酸離れが進む中、コカ・コーラジャパンは図らずも炭酸飲料以外の清涼飲料水(ジョージア、爽健美茶、綾鷹、紅茶花伝、アクエリアス、ミニッツメイド、いろはす等)を豊富に揃えており、そのような成功事例を他国に横展開することが可能です。
これらは本社と日本法人という関係性ですが、輸入代理店のライセンス契約でも同様に日本の代理店の成功事例を世界に展開することは考えられます。そういった健全な緊張関係・相互補完作用を輸入代理店とライセンサーの間で築くことができていれば、また違った結果になっていたかもしれません。
バーバリーの場合も、ブルーレーベルという高校生向けの安価モデルがバーバリーブランドの建付けと異なる中で、いかにバーバリー全体への付加価値に変えていけるかという工夫が問題となります。そもそもブランドの方向性が違うのであればライセンサー側から即否定されるはずであり、一定程度の許容範囲があったともいえるでしょう。その点、三陽商会がバーバリーというブランドの上に胡坐をかいてしまったと言われてもやむを得ないのかもしれません。いずれにせよ、グローカルという言葉がある中、いかに部分と全体がダイナミックな相互作用を引き起こし化学反応を生じさせるか、他山の石とせねばなりません。
編集後記
今回は今更ではありますが、三陽商会やヤマザキナビスコ等で話題になった輸入代理店ビジネスについて扱いました。
人間関係でも企業の提携でも一方的な依存関係というのは長続きしないものです。恩知らずといわれようとも、やはりブランド認知さえできてしまえば直営に切り替えられるのが輸入代理店ビジネスの性質であるのはやむをえません。ナイキは元々アシックスの販売代理店から世界一のスポーツ用品メーカーになりました。時代ごとに提供できる価値を変えていけるよう、お互いが切磋琢磨しなければ時代を切り開いていける企業にはなりません。